嘘を捨てて |
ウォール・ローゼ、トロスト区の開閉扉を巨人の姿で破壊した直後、熱煙に紛れてベルトルトは離脱した。 「ベルトルト」 煙幕の向こうから小声で呼ぶ声の主を目に留めたベルトルトは立体機動装置でその地面への着地体勢へ入りかける。 「いい」 短く否と言い、ライナーも腰の装置を起動させベルトルトの横についた。 計画していた通りの迂回をして訓練兵団宿舎へ戻ることを告げる。 「急いで離れねぇともう駐屯兵団が動き始めた」 五年前のウォール・マリア破壊によって超大型巨人対策が立てられたことは訓練兵も知っているが、それにつけても存外優秀のようだ。トロスト区防衛の司令官は確かピクシスといったか。 「うん」 短く返事をする。 するとライナーは暫くベルトルトの表情を見て有無を言わさずベルトルトを腰から抱えてしまった。 「なっなに?」 ベルトルトは少し慌ててワイヤーを巻き取る。何の弾みでライナーを傷つけてしまうか分からない。 「二分だけ担いでてやる」 その間で何とか調子を戻せということだ。 ばれている。 壁内の人間に「超大型」と称されるベルトルトの巨人の姿は足だけで壁の門扉を壊すに足りる力量があるが、同時にその為の動作だけで酷く疲弊する。 この三年で随分体力もついた。以前より体への負担は遥かに感じないが、少し気だるさはある。 上背のある自分を抱え立体機動で移動するなど、ここ数年の訓練兵の中でも抜群の成績を誇ったミカサといえど無理だろうな、とベルトルトは少し笑った。 全くライナーはいつも酷く他人を甘やかす。 五年前にウォール・マリアを壊す時も、巨人の姿では満足に歩けないベルトルトは人の姿でぎりぎりまでシガンシナ区外壁に近付いた。他の巨人に襲われるリスクが当然ありながらライナーはそんなベルトルトを一人にしようとはしなかったのだ。 ベルトルトが人に戻ってからはライナーが巨人の姿でベルトルトとアニを守ったままウォール・マリアの内扉を破った。 お互いまだ子供で巨人の姿から戻った時は疲弊してぼろぼろで、でも離れられず、アニにも随分呆れられた。 だからどうやって避難民に紛れたかの記憶は曖昧だ。 そんな長かった潜伏も遠からず終わる。 今しがた自分が作った穴から巨人が進入、その混乱に乗じてまたライナーがウォール・ローゼの内扉を壊し巨人はいよいよ最奥へ入るのみだ。 そうしたら憲兵団も調査兵団も関係が無い。 壁の中の全ては壊れ、ようやっと自分達は家路につける。 憲兵団に入りたいなどと実しやかな嘘を捨て、ライナーと帰りたいとだけ願って良いのだ。 「嬉しいなぁ」 「その言葉は帰ってから言おうぜ」 茶化すように言う声を、忘れたくないとベルトルトは一瞬強く目を閉じた。 自分がライナーの何もかもを忘れる筈も無いのに。 |