ゾネンブルーメ |
一日の訓練を終えた訓練兵が代わる代わる水場を使う。 104期生が訓練場から全員撤退した折にはその旨を訓練兵団管理部へ伝達するよう言い渡されていたライナーと、それを待っていたベルトルトは案の定水場へ着くのが遅くなった。 「俺を待つことなかったんだぞ」 「いいのいいの」 今日の訓練は、通常細かく分かれている班を大きく四つのグループに編成しての対抗戦の図式だった。 同じグループになれたお陰でベルトルトは久々に開けっ広げにライナーと行動できて浮かれていた。顔には出てないと思っていたが先程すれ違ったアニに酷く睨まれたので自制できていなかったようだ。全く問題は無いのだが。 「お、ライナー。今日の訓練は助かったぜ。ありがとよ」 二人がまず水を飲んでいると後ろからとっくに部屋着に替えたユミルが声をかけてくる。 ユミルも能力は高いのだが何せ同期のクリスタにしか興味が無いという変り種だ。 今回はライナーが上手く彼女を操って評価は落とさせなかった。 「ユミルなぁ。クリスタを追いかけるのを止めろとは言わんが、もう少し訓練の内容に沿って動いてくれると助かる」 無理だろうけど、とライナーは言うだけ言ってみた。 するとユミルは少し考えるようなそぶりをして 「そうだな。考えておいてやる」 これには横で聞いていたベルトルトも驚いた。 何故かクリスタに異常な執着をみせるばかりで他への頓着は無いと言って過言でないユミルが、他人からの助言にこれだけ譲歩するのを初めて見る。 ライナーも一瞬驚いた様子だったが、「期待してる」とにやりと笑った。 すると宿舎の方からエレンがライナーを呼ぶ声がした。 「悪いな、すぐ済むんだが――…」 「おう」 ちょっと行ってくる、とライナーが呼ばれた方へ向かい何故かベルトルトとユミルが残るという珍しい取り合わせになる。 ベルトルトはライナーの背中を少し目線で追ったが、すぐに隣のユミルを見やった。 彼女はベルトルトの目線の意味に気付いたようだ。 「ん、なぁに。はは、ライナーがクリスタ気にしてやがるかと思ったんだが杞憂だったから、ちょいと気分がいいだけだ」 「…断言するね」 言外に杞憂だと判断した根拠をベルトルトは求めてきたのをユミルは本当に機嫌が良いのだろうニヤニヤと受けた。そうだなライナーは 「少しクリスタと似ている」 だから何か惹かれたのだろう。 「が、違う」 クリスタが死ぬ理由を欲しがっている死にたがりの面があることまでわざわざ言うつもりはユミルに無い。 「今日一緒にやってて分かったぜ。お前苦労するだろう。ライナーは何だってあんなに生き急ぐ」 的確な言葉を選んだなとベルトルトは思う。 同期の中でエレンが死に急ぎと称されるなら、ライナーは生き急ぎだ。 ライナーは自分の身体能力や命の使いどころがここだ、と判断すれば行動が早い。他の連中からはそれが頼りがいのあるように見える。 エレンは目的の為ならかなり手段を選ばない。 どちらも死ぬつもりは無いだろうところが余計に始末が悪い。 それとクリスタがどう関係するのかはベルトルトには分からないが、ではクリスタも恐らく死に近いところにいるかそれを望んでいるのだろう。 そうやって、ここではない何かを渇望しているのだ。 「お前の方がよっぽど生き汚そうだ。逃げ足とか、速いだろう」 ベルトルトの顔から一切の感情が抜け落ちたのをユミルは見ただろうか。 私もそうだからな、と彼女が笑っていたのは覚えている。 |