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部屋の中心でベルトルトは織物をライナーの肌に合わせてこれが似合うあれも着せたいとライナーの四方を物で埋め尽くす勢いでひっかき回し、にこにこと笑っている。
普段よりずっと多く喋っているが大丈夫だろうかとついライナーは心配になる。
腕に通されたたくさんの装飾品は、ベルトルトやエレンがしていたのは見ていたのに自分が着けるとなると不思議な気持ちになった。
試しに腕を軽く振ってみるとしゃんしゃんと光が鳴るような音がする。
ベルトルトはライナーの腕からそれを聞いて余計に頬を染めて喜んだ。
「ベルトルト、どうする」
「僕がやったら多分バレる」
「背が高いからな」
「エレンは、正体が分からないように暴れるなんて器用な真似できないだろ」
「何だとぉ!」
「ほら、そういうところ」
エレンはぐっと押し黙った。
結論は。
「ミカサに頼もう」
「やっぱりそうなるのか…」
砂漠に囲まれたエレンの住む街に肌の白い人間がやってきたのは一年前のことだ。
殆どが大人だったが2人だけ子供がいた。名前はライナーとアルミンといった。
2人は国でも非常に優秀で将来を有望視されており、後学の為に使節団に組み込まれたという話だった。
とはいえまだ子供、市場の物珍しさに2人が足を止めている間にエレンが話しかけてすっかり仲良くなってしまった。
そしてたまたまエレンに引き摺られるような形で居合わせたベルトルトはその幸運に一生感謝することになる。
一年経ち使節団が帰ることになった時にベルトルトはさんざん泣いた。さすがのライナーもちょっと困るくらい泣いた。
ところが使節団のうち数人はすぐに街に戻ってきたのだ。
売り物として。
ベルトルトの涙なんて即座に引っ込んだ。
「どういうこと!?」
ベルトルトとエレンは市場の中央へ、人を避けながら走る。
「父さんの患者が言ってた話でよく分からん、なんかアルミン達の国で情勢が変わってクーデターがどうとかで、後ろ盾が無くなって追われる立場になって、毛色の変わった奴は高値で売れるんだろうって」
アルミンもライナーもこの辺りでは見たことのない鮮やかな金髪だった。しかも若い。
それはそれは売れるだろう。
考えただけで目の前が暗くなるようだ。
ミカサも東からやはり売り物としてやってきたのだがすったもんだの末、今ではエレンの家で家族として暮らしている。
「ミカサ、頼む」
ミカサ自身、エレンやベルトルトに頭を下げられるまでもなくアルミン達が売られるのは嫌だ。彼らと過ごした一年はミカサにとっても楽しいものだった。
ただエレンにこういう危険なことに自ら足を突っ込むのは控えて欲しいと思っているから少し眉間に皺が寄るだけで。
さて全身を隠したミカサが大暴れした市場は大混乱に陥る。
ただその混乱に乗じてライナーとアルミンを開放するつもりだったベルトルトとエレンは、その役割をエルヴィンの一団に先越されてしまった。
エルヴィンもまた白い肌の人間だった。数年前からこの街に拠点を置き今では豪商と言って差し支えない。
砂漠を越えてきたやはり毛色の違う人間が日に日に彼の元に集まるので地元民の中には訝しむ声もあるが、彼の一団は友好的だったし、市場に不必要に介入することはしなかったので好意的な印象を持つ者が多い。
彼がその場を取り持つことを行商人に穏やかに伝えながらもミカサが姿を消した方向にちらりと目線をやったことにベルトルトは気付いたが、どうやら自分達は不問で済むようだ。
エルヴィンがベルトルト達に告げたのはこうだった。
「彼らの国の情勢は我々も知りたいところなのでね、身元はこちらで預からせて貰いたいんだが」
良かったら彼らに会いに屋敷においで。毎日でもいいよ。
そう言われさすがのエレンも毒牙を抜かれたようにその場にへたりこむ。
とりあえず、彼らの売買は阻止できた。できたというより、してもらった、と言うべきだろうが。
「エレン!ベルトルト!」
両手両足そして首の拘束を解かれたアルミンが2人に駆け寄る。
「お前ら、ばかだなぁ」
ありがとう、と笑うライナーにいよいよベルトルトは縋り付いて泣いた。
ライナーは最初のうちかなり暴れたという。
掠り傷・切り傷・刺し傷・打ち身が全身に走っていた。しかも治療をされなかったので所々膿んでしまっている。
ベルトルトはエルヴィンの屋敷でライナーのその有様を見て涙を浮かべたが、口を引き締めるとできる限り優しく治療した。
「どの道痛いんだからそんなに丁寧にされても困る」
とライナーがいくら言ってもベルトルトは譲らなかった。
治療が終わると本を持ち寄って色んな話をすることが多かったが、今日は船が着いたとかで市場は大盛り上がりだ。
ベルトルトが着せ替え人形よろしくライナーに反物を当てているのも、市場が物でごった返している恩恵だった。
エレンはミカサと、アルミンを連れて早速遊び回っている。
本当はライナーも一緒にと誘いたいのだろうが、ライナーの怪我と彼から離れようとしないベルトルトを見てエレンは分かり易く溜息を吐いてからにかっと笑った。
「仕方ないからベルトルトに譲ってやるよ、今はな!」
「今はな」って何だろう「今はな」って、ていうか「仕方ないから」って何だろう。
ベルトルトは考えながらも、目の前にいるライナーを見つめることに余念が無い。
ベルトルトの視線に気付いたライナーは決まりが悪そうに姿勢を直した。
「…何だよ」
「ねぇライナー、今のもう一回やって!腕の鳴らすやつ!」
ライナーは光の塊みたいだ。
「何言ってんだお前」
苦笑するライナーの言葉を待たずにベルトルトはライナーへと手を伸ばした。
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