吉良は暫く阿散井の怪我を検分した後、薬箱を手に阿散井の治療を始めた。
「ばか」
おもむろに吉良の口から出てきたのはそんな短い言葉で、これは事情を知っているのだと阿散井は知り得たが言い訳もできない。
「最低」
「………うっせ」
吉良が黙った、かと思ったら消毒液をたっぷり付けた脱脂綿を傷口に叩き付けられた。
「痛ェっ!!事情があったんだよ、事情が」
「どーせ男湯と女湯間違えただけっていうベタな話なんでしょ」
こうも一言で片付けられては反論が出来ない。
「さっき雛森くんが来て、阿散井くんに会っても助けちゃ駄目だよって」
ああ、ここまで根回しはされていたのか。
「いいのか?」
雛森の頼みを吉良が断る筈も無いと阿散井は聞く。
「僕に放り出されたら頼るあてなんて無いくせに」
「………あ…はい」
「ほんっとばか」
「………」
「ばーか」
「はいはい」
「『はい』は一回」
「はーい。てめぇ、市丸が俺と同じようなこととしてもそうやって文句言うのかよ?」
それまで淀みなく阿散井の治療を続けていた吉良の手が初めて止まった。
「吉良?」
吉良はとても良く出来た笑顔を阿散井に向けると、怖ろしい速さで薬箱を阿散井へ投げつけそのまま執務室から蹴り出した。
「ってー…」
「ばかっ!」
執務室の扉を閉めながらの吉良のそんな声が聞こえる。
阿散井は廊下に散らばった薬瓶等を箱に詰め直すとそれを小脇に抱え、女性達への謝罪と吉良に薬箱を返すタイミングを考えながら自隊へ向かって廊下を歩きだした。