名前の無い日 |
| 市丸と吉良の休暇が珍しく搗ち合った。休暇といってもいつ護廷から任務が下るか知れない身であるが、とにかく「休み」という文字すら久々に見たような気がする。 市丸は隊長管轄の書付裁き、一方の吉良は戦闘実務に追われ、お互いほとほと疲れ果てての休暇だった。 「イヅル欠乏症」と自身を診断した市丸は、やっと顔を突き合わせたのだから満喫しないでどうすると吉良を市井に連れ出した。 苦笑いしつつその提案を受けた吉良だったが、今や市丸の背を追って町並を歩いているうちに夏も終わりの高い陽気に当てられてしまった。意識しないうちに疲労が溜まっていたのだろうかと頭の片隅が朦朧とした状態で考える。隊務明けがここまで体にこたえることは珍しい。 今は日差しと、市中の中すれ違う人それぞれの霊圧すら億劫だ。 「イヅ」 「は、」 上司の呼び掛けに答えんと吉良が顔を上げた瞬間、視界が俄かに遮られた。 市丸の腕が伸び、吉良に影を落としている。 「っ隊長…」 「黙っとき」 市丸の腕を翳された吉良が知覚出来なくなったのは日の光とそして。 ―――――ああ、楽、だ。 吉良にぶつかる他の者の霊圧を、市丸は自身の霊圧を腕に集中することで相殺してくれている。 「徹夜明けか」 「……はい」 「そういうことは言い」 「申し訳ありません」 「それならそれでイヅルをボクの部屋で休ませるふりして軟禁とかそういう方向の休みでも良かったんに」 「もう少し言葉をお選び下さい…」 やっぱりこの人はこの人だなぁと項垂れたい気持ちになる。 「しゃーないな」 市丸が軽く溜息をつき、にやりと笑う。 「もうちょっと連れ回ってもええか。そこの角に新しい硝子細工と金物の店が出来とってな、イヅルに見せたかってん」 「どうして市街の新しい店舗にお詳しくいらっしゃるんですか」 忙しかった筈なのに。 「はて」 「またお惚けになられるんですから。…いいです。仕事は万事滞りがございませんでしたし、それに」 吉良が恍惚として目を閉じる。 「隊長のお傍は気持ちいい…」 疲れているのだろう吉良が市丸の腕に微かに頭を摺り寄せてきた。普段であったらこんなことしてきてはくれない。きっと後で思い出して一人青くなったり赤くなったりするのだろう。 「こんな時ばっかり、この子は」 「そんなことないです」 隊長のお傍が好きですよ、と吉良が小声で言うので市丸は吉良をもっと強く引き寄せ、誰にも見せないよう腕で隠した。 「ボクも」と答えて。 |