隣で 20050831


 あいつが雛森に初めて頬を染めた時も、市丸に…何つーか全部持っていかれた時も、俺はあいつの隣に居た。
 今も。
「ひょっとしてお前、惚れっぽいんじゃないか?」
「突然何を言い出すのかな」

 吉良は貴族とはいえ暮らしには恵まれなかった。
 それなりに人を疑うことも知っている筈なのだが、どうにもそうやって気を張ることは吉良の性格に合わないらしく、結局人を信じやすい…というか騙されやすいのでは、という人種に阿散井には映った。
「別に相手に理想を押し付けるつもりも、例えば酷いことされたからって相手を責めるつもりも無いよ。相手を信じたからにはそういうのは自分の責任」
 以前吉良はそう言った。
 その言葉が吉良にとって真実だったことを阿散井は後に痛感させられることになる。

「僕が惚れっぽいなら、阿散井くんは余程僕の好みでは無かったってことだね」
 一向に何もどうにもならないもんねぇ、と吉良は笑う。
「お前とどうこうって…」
「冗談だよ」
 けれど吉良にとってこれほど長い間の時間を共にする人間は彼ともう一人の少女が初めてで、そう言える人間が居ることを吉良は幸せに思っている。彼らにとって自分がそうでなくても、だ。

 阿散井は、吉良と並んで歩くことが好きだった。
 彼の金糸が目の前を掠める瞬間が好きで。
 自分は彼を大事に思っている。彼がせめて、心に幽かな翳りも無く笑ってくれればいいと願えるくらいには。












花填(あ)して 20051105


 赤い山茶花の花が散り、そこら地面一帯を染めている。
 己の副官が庭の掃除中にそれをぼんやりと眺めていて、そんな風体の副官は珍しかったので自分もその後姿をぼんやりと見ていた。
 少しもしない内に、副官の興味が自分ではなく余所へ向かっていることが腹立たしく感じられて細い背中にどうかしたのかと声を掛けると副官は少々ばつが悪そうに薄く微笑んで「何も」と答え。
 その時振り返りざまに山茶花が副官の袂を捕らえた。自分が駆け寄り山茶花の枝ごと切り落とそうとしたところ、副官が己の手に手を添え丁寧に枝を解いてみせた。
 副官の手はここのところの冷気で一層青白い。

 もうすぐこの赤い花を苗床に白い白い雪が舞う季節になる。