祥瑞









 市丸が正式に三番隊隊長に就任するのはもう数日先になるが、それまでの間は三番隊で面倒くさい手続きやら引継ぎやらを済ませなくてはならない。
 五番隊の方の後始末はあの隊長や他の席官がやってくれる手筈になっている。ああだが身の回りのものを三番へ移動させなくてはならない、ある程度は自分で行うつもりで市丸はいる。
 吉良はといえばまだ若い平隊士なだけに、暫くは五番隊と三番隊を忙しなく行き来する羽目になるだろう。
「すまんなぁこんな急な移動になってもうて。でも爺さんが誰連れてってもええけどボクの移動は誰にも言うな口止めされて―――…」
 少し振り返って盗み見る吉良の表情は先刻より固い。
 はて、さっき呼んだ時は微笑んでくれたのになと市丸は内心首を傾げる。
五番隊の定例会で市丸の五番隊副隊長から三番隊隊長への昇進が公示され、市丸は平隊士の吉良を連れて行くと告げた。
 吉良は何も知らされていなかったので大層仰天している様子だったが、そんな吉良に市丸は言ったのだ。「ついておいで」と。そして名前で呼んだ。初めて。
吉良は一今度は瞬ぽかんと呆けていたが、すぐに顔を綻ばせて返事をしてくれた。
 さてそれから自分は吉良の機嫌を損ねることをしたのだろうかと市丸は思考を巡らせたがうまくいかぬ。人の機嫌など気にしたことは生まれてこの方死んでこの方滅法少ない。
「イヅル?」
「は、あの、名前で呼ばれるのは……」
「嫌?」
「滅相もございません!ですが僕は席官ですらありませんし、市丸隊長に甘えているようで申し訳なく…」
  吉良の声は次第に萎み、視線も段々俯いてきた。
 今度は市丸が呆ける番だった。
 移動を突然言い渡されたことに緊張もしているのだろうがそれより自分が下の名で呼ばれる方が怖ろしいと言う。度胸が据わっているのか良く分からない子だ。
 もっと甘えたらええのに。
「ボクんこと『隊長』ってはっきり言ってくれたんイヅルが最初やわ。隊長なったっていいことなんぞ別にあらへん思とったけどそうでも無いもんやね」
 もっと呼んで欲しいなぁと市丸は思う。
「ボク、イヅルつれてきて良かったんやろか」
「はいっ」
 今までで一番良い返事に市丸はつい脂下がる。
 自分はこの子が欲しい。だってこんなに自分を慕ってくれるものを知らなかった。こんなに心地良い霊圧を知らなかった。
「イヅル」
「はい」
 吉良は腹を括ったかのように少し笑って返事をする。
  もっと呼びたいな、と市丸は言った。これからたくさん呼ぶと。

 吉良が市丸に対して返事を渋ったのはこの二回目に名前で呼んだ時と尸魂界を去る間際、最後に呼んだ時だった。





















――――――――――
市丸隊長(何百歳か知りませんが)誕生日おめでとう。