棚機つ女 |
| 長い回廊の日差しが当たらぬところを歩いて三番隊副官室まで辿り着くと人影があった。 「おはよう、阿散井くん」 阿散井も吉良に気付き短く挨拶をする。 「今日は晴れそうだな」 「晴れてるじゃない」 早朝ながら日は高く、日差しが強い。 先程まで夜通し書面と睨み合っていた身としては避けたい陽気だと吉良は溜息をついてみせる。 「やっぱり今まで仕事してたわけだ」 「ここ連日こんなふうだったからね、お陰様で今日は休みを貰えたよ。終業時刻には隊舎に顔を出すつもりでいるけれど」 「悪いな疲れてんのに」 「いつものことですからお構いなく」 茶化した声がいつもより吐息交じりで恐らくは声を出すのも億劫なのだろう。 「檜佐木先輩が呑もうって言ってたんだ。九番隊の隊舎の屋根、天辺貸してくれるってよ」 九番隊舎は立地的にも高い位置に設けられているからいい眺めだろうなと吉良は思考を巡らせた。 日差しを受けて光る芝草が目に沁みる。 強い日差し。 屋根で初夏の祭だと騒いで酒を呑む。 「…ああ、そんな季節か」 その声を阿散井は聞こえなかったふりをした。 吉良は阿散井に向き直ると「いいね」と破顔する。 「三番隊に顔出したらすぐ九番隊集合な」 絶対来いよすぐ来いよ、と念を押すと阿散井は少し急いて三番隊副官室を背に走り出した。 始業時刻は間もなくだ。だから吉良も茶の一杯でもと勧めなかった。 阿散井を見送り吉良が障子の引き手錺に手をやると、阿散井が走りながら器用に顔だけ吉良の方に向け大きく言った。 「おやすみー!」 暫く呆気に取られ、返事をしなくてはと思った時には阿散井はもう全速力で去っていた。これでは声は届かない。 「おやすみなさい」 吉良は小さくだがしっかりと阿散井の背に返事をすると、夜までにどんなつまみを用意しようかということを少しだけ頭の隅に置いてやっと自室へと入っていった。 「でも先輩って夏の呑みは水辺でやるのが好きだったよね」 「去年の夏祭りに気に入りの川原で一人で花火見てカッコつけてるところを女性死神協会の上層部に発見されてそりゃあもう恥ずかしい思いをしたらしいぞ」 「…それはそれは」 |