新芽の義理 |
鳳橋が三番隊隊長に復帰して最初の春、芽吹いた木を見て彼はやっとそれが柿であることに気付いた。 百年と少しの間に見慣れないものや見られなくなってしまったものはこの瀞霊廷にたくさんあったが、三番隊隊舎敷地内に目に見えて木が増えたとは思っていた。 少し後ろを歩く吉良に鳳橋は訪ねる。 「あれ植えたの誰だか分かる?」 「あああれは」 市丸隊長が、と自然に言いかけて彼の名前が禁忌に近くなっている現状に吉良は思い当たる。 かといって呼び捨てにはできない、しかし「殿」や「様」なんて益々言えない。 「…市丸前隊長が」 「そう。お好きだったんだ」 この方がどういうつもりで市丸隊長の話を拾うのか分からないな。 吉良は小さく「僕は」と呟いてから一気にまくし立てた。 「嫌いなんですよね、もし鳳橋隊長がお好きでないなら処分命令出して下さいませんか」 「…収穫しなくても放っておけばいいんじゃない」 「あれは干し柿用の渋い種ですから鳥も食べませんよ」 「えーそうなの…」 吉良は新芽の枝すら見ない。 「でも吉良副隊長は隊長権限代行で伐っちゃったりしなかったんだ」 「僕は隊長ではありませんので」 「そう?」 「あの方は人の感情を試すようなことばかりなさって、心を乱すようなことばかり言って、でも意外と僕のことを否定したりはしなかったんですよ」 それは吉良の反応が市丸の気に入るものだったからではないかなと鳳橋は思ったが言わない。 だから僕も否定するわけにいかないじゃないですか。 吉良は溜息をついてやっと少し目線を上げた。 「僕がさ隊長だった時の副隊長は射場のおばちゃんで」 「…?はい」 「現世に行ってからは回りは女の子かおっさんばっかでさ」 「はぁ」 「浦原くんから尸魂界の時事的なことは色々聞いてたけどやっぱり来て見ないと分からないものだなって思ったりしてて」 「ええと」 慣れるまで時間が掛かっちゃうかもしれないけれど、 「宜しくね、吉良副隊長」 ローズはごく自然に右手を差し出した。 吉良はそれを見ているのに「はい」とだけ答えて深く頭を下げる。 その誠実さは嫌いでない。 |