ドレッドノート |
例えば上司に部下に同僚にそれぞれへ適切な表情と言葉で接する中、そのうちのどれかに似た表情でふいに何かを探すような目を彼はするのだと気付いたのはその日だったと思う。 鳳橋に公的な休暇がやっと降りたのは隊が立て込んでいる三・五・九の隊長の中で二番目だ。 僅か一日の短い非番だというのにその日、鳳橋が死覇装姿でのそりと隊舎に入ってきたことにいの一に気付いたのは丁度他隊への使いから戻り入口で事務処理手続きをしていた片倉六席だった。 「隊長、その出で立ちでここまでおいでですか」 「護廷をうろつくのに死覇装くらい着てないとまずいでしょ。イヅルいる?」 「奥間の執務室に」 ありがと、と言って鳳橋は言われた方へ歩き出す。肩に隊長羽織は無い。 「……何か御用でしたか」 幾つか言葉を飲み込み、戸を開けて立っている鳳橋に吉良は問うた。 「ううん、見てたいだけ」 鳳橋は手に見慣れぬ大きなものと冊子を持っている。 「ここ座っていいかな」 執務室の隅の上げ畳を指す。 「非番なのですから、ご随意に」 静かにしてるから。子供のようなことを言った鳳橋は実際衣擦れの音すら立てずそこに座っていた。 楽器には手を添えるだけで奏ではせずたまに何かを帳面に書いている。 そう、現世の楽器だ確かあれは。 霊子変換してまで尸魂界に持ち込んだ程なら当然思い入れのあるものか。 恐らくその楽器とも関係があるのだろう良く分からない片仮名の話を平子五番隊長とも彼はしばしばしていて、その度に吉良と雛森は隊首の背中越しに目を合わせて少し笑うようになった。 そんな平穏に頭の端から融解する思いだ。 そこにいるのは。 そこにいるのは? 「イヅル」 この隊首はそこから吉良を連れ出すかのように名を呼んでみせる。 「はい」 「イヅルは優秀な副隊長だね」 鳳橋がどうして吉良を三番隊副隊長に据えたままを是としたのか吉良自身は未だに分からない。 「おや、静かにしていると仰ったのに」 「ええーそういうこと言う?」 この時勤務中の隊士に「見てたいだけ」といった声が聞き取られそれが上位席官の耳に入った。 翌日の出勤早々「やってることが市丸隊長と変わらない」と戸隠三席に言われた鳳橋は戸隠のかなり冷たい目線を無視して「どんだけ変態だったの彼!」とつい口に出していたという。 |