それなんて・二 |
「なんや最近ローズと真子が黙ったかと思えばうろうろ歩き回って気持ち悪い」 猿柿が煎餅を齧った。 「真子はあれやろ雛森ちゃんいう子ォ気にしとんのやろ。こないだ見てきたってからずっとあんなやん」 「責任感じるわぁって言ってたよー」 「ふーん」 「フン!」 「やっぱり『隊長さん』達だねぇ」 久南の暢気な声に矢胴丸はちょっと考えて返す。 「そうか」 「そうかぁ?」 わざと猿柿は大きく煎餅を噛む音を立てた。 病室で執務してる女の子を覗き見るのと、健全――とも言い切れないかもしれないが通常に執務をしている男の子を除き見るのとではひょっとしてこちらの方が犯罪くさいのではないかなと鳳橋は今になって思い至ったが口に出すのは止めようと決めた、特にヴァイザードから散々煽られて尸魂界に送り出された平子の前では。 総隊長の心積もりで鳳橋は一番隊鐘塔の更に屋根の上に立っており、ここから三番隊隊舎を覗き見ることになる。 「一番隊三席殿がわざわざ出向いて下さる上に縛道でこちらの姿を隠してくれるなんて」 一番隊は本日の業務は大丈夫なんですか、と小さく呟いたら「無用の心配です」と確と答えられてしまった。 どうせ雀部一番隊副隊長は平子に付いているのだろう。 「さすがにこの運び、裏廷のみに任せるわけに参りませぬ」 雀部も沖牙も鳳橋が護廷に入る前から一番隊で山本総隊長を支えてきた大御所である。 かなりの厳戒態勢をとられていると言っていい、「幾らでも挿げ替えがきく」副隊長の検分に。 藍染によって護廷が辛酸を嘗めされられそれによる結果であるともいえるが、吉良三番隊副隊長・雛森五番副隊長を護廷でも扱いかねているのだろう。 九番はとにかくも知らず藍染の思惑に加担することとなった三番五番の副官への表向きのお咎め無しにどれだけ護廷の、延いては尸魂界の思惑があったことか。 果たして雛森はそれに気付いているのかどうか。 気付いていないならそれで良いのだが 「あの子は気付いてる気がするなぁ…」 気付いていないならそれでも構わない。 後は隊長が護ってやれば良い。 平子にはきっとそれができる。 では、鳳橋は「気付いている」吉良をどう護ってやれるだろう。 それはそれとして。 「なんだか、外で聞くのと実際見るのとでは印象が…」 三番隊は市丸前隊長の人気で回っていたとかで、現在は上下関係がぎくしゃくしているとかなり元も子もないことを鳳橋は耳にしていたのだが。 「人望の無い者が人の上に立てますか」 どれだけ我の強い死神が隊長になろうと隊が纏まらなかったことは過去に例を見ない、と沖牙は言う。 「吉良副隊長を慕っている者も市丸のそれとほぼ同数いると私は聞いています。ご自覚は無いようですが」 各隊の上位席官には一番隊の息の掛かった者が一名はいると鳳橋が護廷に居た頃からまことしやかに噂されていたがあながち嘘でもないかもしれない。 「あ、そう…」 さて吉良は一度もこちらを見ない。 わざと鬼道でも飛ばしてみようかと思うほどに。 沖牙の無言の牽制がそれをさせないが。 ふふ、と鳳橋は薄く笑う。 それを沖牙は目の端で捕らえたようだった。 |