弓弦葉








 ナジャークープが眼前から離脱したのを追うため鳳橋は踏み出したが、刹那、向かった先が山本総隊長の苛烈な霊圧であったことを感知すると踵を返し西の白道門へと駆けた。
 三番隊上位席官の守備配置である。

 隊長復帰の初日、勤務時間終了後に鳳橋が一番に向かったのはかつての副官射場千鉄の住居だった。
 千鉄は退職こそすれ現在なお健在で、瀞霊廷の端で近所のご老体の世話を焼いたり事務的な手続きの手解きをしたりとご意見番めいたことをしてひっきりなしに動いていると彼女と同じ訛りを持つ息子から聞いた。実に彼女らしい。
 現に会ってみると浮かれてしまう程に彼女は昔のままであった。
 対面一番にどつかれたので。
 鳳橋を含め後に『仮面の軍勢』と呼ばれるようになった一同が嵐の如く尸魂界を去った後、その上官部下の労苦は計り知れない。
 そのことを極めて真面目に陳謝したつもりが鳳橋はまたどつかれた。
 そして二人は笑うのだ、昔のままであると。そこからは昔話や昨今の世間話に花を咲かせた。
 出された茶のすっかり冷めた頃、千鉄に来客があり鳳橋は暇を告げた。
「あんまり来なさんな、今の副官さんが気を揉むけぇ」
 そうさね瀞霊廷で偶然になら会うちゃる、と彼女は快活に笑ってみせた。
 彼女は歴代三番隊席官の中でもかなり明るい方に分類される。
「うん、千鉄ちゃん」
「千鉄ちゃんって言うな」
 射場家の小さな門を閉めて、日の陰った最初の辻を曲がったところに吉良がいた。
「…も」
 ばつが悪いといったような顔をしたな、
「も?」
「申し訳ございません差し出たことを致しましたっ!」
と思ったら全速力で逃げた、それも瞬歩で。
 かなり疾いが霊圧が動揺している。
 さてどうするかと逡巡の後、追いかけてみることにした。
「いーづーるー」
「うわぁすみませんー!」
「何で謝るの」
「隊長は業務を終えてのお休みでらしたのでやはり僕がついて回るのは過剰でした、万が一そこにお赦しを頂けたとしても姿を見せるべきではありませんでした」
「そうかなぁ」
 自分は余り気にしない。
 吉良はこれまで一度も鳳橋の行動を制限しようとも邪魔をしたこともないのだし。
「ああじゃあさ、今度イヅルのプライベートのどっかに連れてってよ」
「え」
 楽しみにしてるね、と断る間も与えず鳳橋は約束を交わしたことにしてしまった。

 絶望が孤独でなくてはいけないわけではない、絶望が身を寄り添うてはいけないわけではない。
「隊長!」
 隊舎の留守居を言い付かっていた三番隊四席が鳳橋の瞬歩に横付ける。
「現在戦列に立ってるのは」
「は、情けない話で御座いますが隊内には…」
「動けるの全員集めて、隊舎守護も全員。救護に向かうよ」
「御意に」
 四席は即座に地獄蝶に伝令を告げた。
 白道門の下、かばねが広がる。
 幾つか生きている霊圧を鳳橋と四席が探して平地に並べていく中、とても幽かな霊圧を鳳橋は引き当てた。
 頭と繋がっている手を引き、自分の手を添える。
 吉良は元四番隊所属であると聞いている。であるなら体内に霊圧さえあれば回復・霊子修復に変換できる体質に特化している筈だ、少なくとも鳳橋の知る百年前であれば。
 鳳橋は手から霊圧が吉良に流れ吸収されていくのをじりじりと見ていた。
 この中で一番の霊圧を持つ吉良は真っ先に狙われたわけだ。
「イヅル」
 声になるかならないか、それくらいの空気の振動の何度目かに吉良の指先が小さく反応した。
 激痛が奔るであろうに薄く目を開ける。
 地獄蝶を媒介して聞こえたのは二言。
 隊長。
 申し訳ございません。
「うん、ううん、また会えて嬉しいよ」
 遠くに山本総隊長の霊圧に触発された死神達の雄叫びが聞こえる。
「ありがとう、よく生きててくれたね」




















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広島弁が良く分からな…すみません。
千鉄ちゃん呼びとか妄想です。
四番隊云々も妄想です。
普通の死神も鬼道を使って回復ができる描写があるのに、更に救護に特化した四番隊がいるってことは、もちろん四番隊は鬼道で回復もできるんだろうけどそれ以上に何か能力があるんだろうと思われます。
鬼道を通さず霊圧そのものを回復に使える、自分も他人も。とか。
妄想ですけどね!
四番隊って実はその辺の描写無くないか?

最後になりましたが。
え、イヅル生きてるよねー!?