彼岸 20120909



「おんや、見覚えのある子が歩いてくる」
 顔を上げればこちらを見ているのは、
「嬉し嬉し」
「…嘘ばかり仰る」












彼岸・二 20140520


 水には神が棲む。
 霊の通り道にもなる。
 尸魂界にも川は通っており、流魂街区域ではその集落ごとに管理を預けてはいるものの、総締めているのは護廷である。
 鳳橋はその麓で吉良と話していた。
 いや、実際はそんなに言葉は多くない。
 それでも話しているなぁ、と鳳橋は顔を綻ばせた。
 吉良はそんな鳳橋を見上げて告げる。
「鳳橋隊長、そろそろ行きませんと」
「イヅルは?」
「僕は隊長の尻を叩くお役目ですので」
「一緒に行こうよ」
 そう言って手を伸ばすと、吉良の右手はするりと抜けた。
「ああ右手は侘助と…。いえ、そのもっとずっと以前に、あの方に差し上げてしまいました」
 そのために離れていってしまって定着しないんでしょうかねと言う吉良は淡々と、だがどこか笑っているようにも見えた。
「左だけでもいいからさ」
 だから行こう、と鳳橋は今度は手を差し出した。
 吉良はその長く大きな手を暫し見ていた。彼の手はちっとも鳳橋へと伸ばされない。
 しかし吉良は憑きものが落ちたような声音ではっきりと言った。
「きっと行きますので、もうちょっと頑張ってて下さいね」

「あー…ああ言われちゃったら、頑張らないわけには」
 鳳橋はのそりと体を起こすと、傍らに転がる六車を見付けて一蹴り入れた。