いつ 20090528


 そうだ最初の頃、閻魔が就任して本当に最初の頃だけ「閻魔様」と呼んでいた。
 法廷に鎮座する王を見るなり「閻魔様」と声に出し手を合わせた死人を見て鬼男は唐突に思い出した。
 彼の名は死人を裁く怖ろしい形相をしたあの世の王として認識されているというが、
「え、ん、ま、さ、ま」
小さく口に出してみれば、だいおうよりごつい感じがしないいっそ可愛らしいぐらいだと思う。
 人とは分かり合えないだろうなと考え、いや待て人と鬼との線引きが閻魔の名における印象とは何事だと鬼男は思考を霧散させようとした。
 裁きを済ませた上司の横顔を見る。
「大王」
「んー?」
「閻魔様」
「ん…んん?」
「大王、可愛いお名前してらっしゃいますよね」
「!」
「……何か?」
「初めて言われたし!ちょっともおそんなこと人の前で言わんといてね威厳とか威厳とか威厳とかの問題が」
 いや初めてでは無い。
 似たようなやり取りが大昔あって、恥ずかしがった上司の命令で閻魔庁の鬼は以来「大王」と彼を呼ぶようになったのではなかったか。
「何言ってんですアンタ威厳なんてからっきしじゃないですか」
 閻魔はもう耳まで赤い。
「あああ昔同じようなこと言われた気がするよちくしょー!」
 あ、どうやら彼も思い出した。
 鬼男は何故だか気分が良くて、机の上に突っ伏しまだ何事か喚いている上司をにやにや見ていた。











塗盆 20090917


「知らなかったんですけど、神様って健康であることも仕事らしいじゃないですか」
 休憩時間に入った途端執務室から退出した鬼男は大きな角盆を両手にすぐ戻ってきた。
 お盆の上にはたくさんの食べ物にお茶も添えられ、鬼男くんは随分食べるんだなぁと思っていたらどうやら自分に食べさせるつもりではないかとやっと気付いた閻魔は少し青褪める。
「え、なに誰に何を言われたの鬼男くん」
「貧しかったり健康に恵まれなかった人が神様の荘厳な姿を見て祈るそうじゃないですかぁぁぁぁぁ」
「それ仏像の話でしょ私自身は関係無いんじゃないかなってか誰に聞いたの!?」
 鬼が人界に入ることもあるがそこの常識を持ち合わせているものはまずいない。もう少し生と近しい連中から耳に入れたのか、もしくは閻魔を困らせて笑いたい連中からの入れ知恵だと思われた。
 しかしそう見当をつけたところで目の前の鬼を止める手段にもならない。
「黙らっしゃいとりあえずアバラが出てる神様仏様は確かに居ないなと思いまして」
 太って頂きます。
 ああ今度アバラの浮いてる仏像を探しに行こうと閻魔は誓った。