君がため死ぬる骸に草むさば |
刀の手入れの為に持っていた懐紙にふと筆を滑らせた。 これは河上が副業としている曲を作る時に良くやることなのだが、今日に限ってどこから現れたのか高杉が河上の手元を覗き込んでくる。 背が足らぬ為少し踵を上げてこちらに寄る様などを見ると、一体どういう因果でこの華奢な男は戦争なんぞ起こしているのか疑問が頭を過る。 そんな河上の気も知らぬ高杉は「お前は句も作るのか」と紙面から河上へと視線を向けた。 「それぁ、拙者これでも文化人でござる」 「なァにが文化人だ」 鼻で笑うも、今日の高杉は機嫌が良いのか暇なのか河上の歌に興味を持ったようで、三味線を引き寄せ河上の歌に節を付け声に乗せてみせた。 河上は聊かの気恥ずかしさに見舞われながらも、高杉の唄声は珍しいものだったので黙って聞いていた。全く、自分の作ったものを他人に見られるを戸惑うとはいつぶりのことか。 二つ三つ歌った高杉は、河上の懐紙の中に少し古びた一枚があることに気付いてそれを手に取った。 「あ、それは」 幾らか前に詠んだ歌で、何故か持ち歩いていたものだ。 歌を見て「ふゥん」と呟き高杉は三味線を脇へ退けた。興が削がれたのかと思えばそうでもない、機嫌は先と変わらず良さそうに見える。 「何だ、唄ってくれるのでは御座らんのか」 「それはとっておけ。辞世の句にでもするといい」 どういう意味だと訝しく思いながらも、彼の言う通りになってしまいそうな自分を知っている河上は黙って高杉の横顔を少し見た。 「そこまで言うなら、少し位褒めて呉れても良いのでは」 「下手糞」 そう笑った高杉は楽しそうだった。 君がため死ぬる骸に草むさば赤き心の花や咲くらん |
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河上万斉の誕生日合わせで書きました。
最後の句は、万斉の元となった河上彦斎の辞世の句です。