これから始まる世界の音 |
今日の講義が終わり、塾の周りで思い思いに遊んでいた生徒達も日が傾くにつれ少なくなってきた。 さっきから高杉の姿が見えないことをひたすら庭や塾の中を探し回って確認した銀時は、高杉は今日はもう家に帰ったのだろうと思いつつも、高杉は松陽をそれこそ敬愛していて出来得る限りこの塾に居るようにしていたことを知っている。今日の彼はもしや体調が悪かったのだろうか。小柄で体の弱い高杉はよく寝込んだ。 歩きながらそんな方向に思考が流れ始めた時、銀時は中庭に面した松陽の私室から部屋の主に呼ばれた。 何用かとやる気のない返事をすると師はそれを怒りもせず笑って手招きをしてくる。この人はこういう仕草が妙に大人らしくないというか幼子のままのようだった。 「銀時、晋助を呼んでおいで」 「…何で」 「今頃きっと本に埋もれて寝入ってしまっていると思うんだ」 「蔵?」 そういえば蔵は探していない。 銀時はあの蔵書量を見ただけで眩暈がしてくる。 「そう。もう冷えてくる頃だから、起こしに行っておあげ。晋助は風邪をひき易いから」 「先生が行った方が喜ぶよ」 おやおや不貞腐れてるねぇと思ったことや、銀時が晋助を気にしてずっと遊びもせず探し回っていたのを黙って見ていたことは黙っていようと松陽は少し意地悪く思う。 「私はここで待っているから。そこの羽織を持っていっていいよ、晋助に着せてあげなさい」 それでも銀時は渋っている。 「蕨餅をさっき貰ったんだ。銀時は要らないかい」 「…仕方ないなぁ」 そう言って銀時は羽織を乱雑に掴み、踵を返し蔵へと歩き出した。 次第に早足になっていく銀時を暫く眺めていた松陽は、可愛い教え子二人と自分の分の茶菓子を用意しする為にゆるりと立ち上がった。銀時が食べ物で釣られたフリをし易い様にさせてあげたとはいえ、とっておきの蕨餅を出す羽目になるとは。 「あー私って大人ー」 |