遠い昔話だと笑うには鮮やか過ぎた 20060104


 戦場で歌う彼を見たことがある。
 攘夷志士と天人の骸が転がる中、やはり既に息絶えた仲間か部下かの体を担ぎ(彼は小柄な為その光景は異様だった)そぐわない程優しい声で歌っていた。
 それは手向けの歌か、故郷の唄か。
 自分が死ぬ時、あんな風に歌ってくれる人が居たらどんなにか仕合せだろうと思った。
 それでいて彼はどこまでも孤高の高潔さを失わない。
 血は今なおその身を清めていくかのように、彼に燦々と降り注ぐ。











唐突に高杉と万斉の会話 20060205


「お前さ、銀時のテキトーなところとヅラのしつっこいところと辰馬のいー加減なところを足して割ったような奴だよな」
「晋助、それ褒めてないでござる」
「褒めてねェもん」











かいな 20060715


 眠れない日も多かったあの戦争の時、高杉が自分の肩を一晩中抱いてくれていたことがままあった。
 このままこうしていてやるから夜襲があったら一番に起こしてやるし万一の時は俺が盾になるだろうからお前が死ぬことは無い、何も恐れず寝ていていいと彼はひっそり告げた。
 違う、自分が恐れているのは自分が死ぬことでも自分が殺すことでもなくて例えば今肩を抱いてくれている誰かが死ぬことなんだと言いたかったけれど、全くお前はこんな仕草をどこで覚えたんだと言いたかったけれど、その心地よさに甘えて何も言わず自分はそのまま瞼を伏せたのだ。












百日紅 20060820


  高杉が夏生まれだということを信じていないのは実は高杉自身であった。
「こんだけ暑さに弱けりゃそう思いたくなるのも分かるけどさ」
「うっせ…」
  心持弱い声を高杉は布団に臥したまま絞り出す。
  全く不覚であった。体を壊すのは珍しくも無いがこの銀髪野郎と説教くさい奴にわざわざ見舞いに来られるとは。
「明日は行く絶対行く何が何でも行く」
  桂は溜息を聞こえるように吐いてみせる。
「無理して来ても先生は喜ばんぞ」
「行く」
「あっそ」
「『あっそ』で済ますな銀時ィィィィィ!!」
「うっせーヅラぁ、ここ病人の部屋ですー」
  彼は頑固だからこれだけ断言するなら明日は塾に来るのだろう。だったら彼の分まで彼の体調を気遣ってやるだけだと銀時は思う。

  例えば百日紅の元で死んだなら君の屍は百日、紅の花の下で守られる。
  けれどそんなことをしなくとも。
  高杉の命も屍も自分が守る筈だったのだと、今は高杉の口元を押さえる骨の浮いた手から零れる紅い血を見て愕然となる。
  その紅は花ではなく最早生きた人のものでもなく。












遠くでも 20061010


  高杉の髪を思い出す。
  あれの髪は黒くて真っ直ぐで、そして困ったことに括れないくらい艶やかだった。髪を纏めようにも手の間からするすると零れ落ちてしまうのだ。
  だから彼は短髪で通すことにした。初めの内は不本意だったようだが戦になると結い上げる手間が無くて楽でいいとよく言っていた。
「そうだよなァ、お前まで髪が長かったらヅラとキャラ被るしなァ」
「あいつのはヅラだが俺のは地毛だ」
  あれの髪の一本一本が光の加減で真っ直ぐな筋を作る様が好きだった。
  そんな髪の毛を思い出した。
  今日は雨で、白く細い光が天から降ってきている。