よって高杉の身辺にはこのところ鬼兵隊の幹部が誰かしら詰めるようにしていた。
誰が高杉に付くかはその時々で違ったし、人によって距離のとり方も変わる。
河上はこれが堂々と高杉に張り付く筆頭で、今日も今日とて戦艦の端のほうにある高杉の自室に上がりこんで譜面やら書面やらを見て何事か書き込んでいた。
紙の乾いた音と衣擦れの音しかしない静謐な部屋の中心で、どうしてこいつはこうなんだと河上を見ながら高杉は煙管を吹かしていると当の人物がヘッドホンを外し口を開けた。
優しい奴から死んでいく、なんてことを尤もらしく昔誰かが言っていた。
「と、いうのを先程急に思い出して」
「ハァ」
河上はたまに周囲の前後の空気を読まないまま自分が脳内で考えたことを突然振ってくることがあり、そういう時受け答えする側は河上の頭の中で何が起こっているのかを察してやらなければ序盤の会話は成立しない。
何だって自分がこいつの脳内に付き合ってやらにゃならんのだと高杉は思うがこういった質の手合いとは不本意ながら付き合いが長かったので、つい話の続きを促してやるような態度をとってしまった。
「けれどそれは嘘でござった」
「そうかね」
「晋助はまだ生きているでござるから」
「あ?」
煙管から視線を河上に思わず向けさせられた。
「俺は誰かに優しくしてやった憶えなんざ一つもねーよ」
「誰か一人には優しくないかも知れんが、皆に優しいでござる。晋助がいなければ、今ここにいる誰も生きてはいない」
そんなの優しさだなんて誰が言うものか。
「良い奴から死んでいくってのは合ってると思うがね、俺は。俺が死ぬのは一番最後なんだぜ、俺は最後に全部無くなるのを見届けなきゃいけねーんだから」
「そう、だから晋助は優しいでござるよ。拙者達が戦い死ぬことから目を逸らさないでいてくれる」
だから護る、絶対護る。
そして最後まで護り通して、やはり誰かが言ったあの言葉は虚言だったのだと自分は仕舞いに笑うのだ。