竹の花








「きもちわるい」
 夜、高杉が唐突に言った。
 はて身体が丈夫とは胸を張って言えぬ高杉のことだからまた体調でも崩したのかと思い問えば違うバカヤローと睨まれた。
「きもちわるい。離れるぞ、ここ」
「え、里曲の隅の宿屋にパトロンがもうすぐ来るのだが晋助」
「煩ェよ。とにかく離れる。お前が嫌だっつんならそれでも構わねーぜ俺だけでも出る」
 それは困る。相手方との歓談に高杉の存在は必要不可欠である。
 しかし更に困ってしまうことに、自分が高杉の感の良さが身に染みている。
「分かり申した。先方には拙者から伝える」
「ん」
 高杉は小さく頷いた。
 本艦には即時戻る都合と小舟を出すよう言い渡し、河上は移動の仕度を整え始めた。
 普段は行儀悪く高いところや間戸辺が好きな高杉なのに今は障子窓に寄り付こうともしない。
「嗅いだことのない匂いがする」
「晋助?」
「…いや、あるのか、これは」

 高杉は迎船に乗り込むなり個室へ入り丸まってしまった。
 それを見届け、河上は船を出させる。河上自身は周囲に異変の有無を確認次第、夜明け前にバイクで退却する心積もりだ。
 人里は来た時同様閑静なものだった。
 高杉は何故あれほどこの場に拒否を思ったのか、と視線を上げれば街を囲うように群生していた竹が白く染まっている。
「なる、ほど」
 話に聞いたことはあったが実際目にするのは初めてのことで河上も思わず息を飲む。
「竹の花か」
 高杉はこれの気配をきもちわるいと言っていたのだろう。
 彼はこの匂いを知っているようでもあった。河上と会う前、戦の時にでも見たのだろうか。禍禍しい不祥の殊更稀な白い花。
 それは、切ない。





















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高杉の誕生日合わせで書きました。