花簪を挿すならば |
空気が冷たい日はかつて傷を負ったあちこちが存在を主張するので億劫である。 等と些か感傷に浸っている空気は部下の帰還で脆くも崩れ去った。 「晋助晋助、梅」 「うっせぇぇぇ」 副業から戻ってくるなり藪から棒に万斉が障子を開けて高杉の私室にずかずか上がる。片手には梅の花。 それを高杉に差し出す。 手を弾くのも憚られて渋々受け取ると万斉は満足そうに笑んだ。 季節はそろそろ梅を通り過ぎ杏や桃が綻んでいる。早咲きの桜も先日見た。 万斉がにやにやしているのは鬱陶しいが、高杉はやはり目先の風流に弱かった。 「ふっふっふ」 「気に入り申したか」 「花はいい」 「ふむ、そうか」 万斉はしたり顔でそうかそうかと一人頷く。 「晋助を喜ばそうと花は綺麗に咲くのだな」 「…………………」 何を言うのかこの男。 「ん?」 普段他人に見せる冷めて擦れた表情など形を潜め子供のような笑顔を向けてくる部下にはっきり腹が立った。 何だ。ここで照れて顔でも赤くすれば満足かこのベタ好きめ。 「花、返すから生けとけ」 ぶすりと音がするくらい景気良く梅の枝を万斉の頭に突き刺してやる。 「折角いいこと言ったのに流された!」 「そこかよ」 痛い痛いと頭を抱えながら万斉は、どうせ花簪を挿すなら自分より晋助だろうと文句を論う。そんな抗議は高杉には的外れとしか思えず高杉はまた唇を尖らせた。 本当に何を言うのか。 |