檳榔庇の車 |
これをと畳の上に差し出された小さな包を開ければ刀の鍔。 「差し上げる」 「ああそう」 小箱に入った鍔を高杉は指先で触れる。冷たい。 「愛刀に似合いと思うて」 つまり刀身のみで装飾の無い高杉の刀をどうにかしろと言っているようだ。 高杉が黙っていると万斉は続きを促されていると判断したらしく続けて言った。 「百歩譲って柄緒と鍔だけでも付けて下され。これ無しで刀を振るわれては怖くッて仕様が無い」 大昔に同じようなことを言われた記憶が甦りそうになり高杉は慌てて記憶を霧散させる。 「お前は俺の刃なんだろう。お前は俺の傍を離れて俺に直接刀握らせるような愚挙を犯す気か」 万斉は一瞬息を詰まらせる。 この卑怯者。そんなことを言われてはすみません自分が悪うございましたとうっかり深謝してしまいそうになるではないか。 「そのような事態決して起こり得ぬこと、晋助は知っておろう。いやそうじゃなくて、そうは言っても、だから拙者が心配なのは、晋助が先日のように誰も連れず前線に出て斬り合いされると困ると言っている」 今度は高杉が言葉に困る番だった。心配ときやがったのだ。 「戦争ン時もこうだったからいいんだよ俺ァ」 「と聞いてはおるがそれでも気になる」 「嫌だ。余計なもんつけると重くなる」 「それなら刀の長さを変えなされ」 言えば万斉はぎろりと睨まれた。おっかない、おっかない。 高杉は長刀を好んで使う。攘夷戦争時代、高杉の郷で流行ったのだと聞いている。だからといって彼自身の身の丈に合っていないものをいつまでも愛重するのは戦いの中に身を置く立場としては如何なものかと、というより見ていて本当に危なっかしくてこちらの心の蔵が持たぬ。 どれだけ進言しても彼は聞きやしない。そもそもこんな意見なぞ聞かずとも高杉自身分かっていることであろうに、そんなことはどうでもいいとそっぽを向く。 攘夷戦争当時に高杉と一緒に居た連中はこんな危うい子供を見ていては気が気でなかったろうと万斉は思わず同情の念を禁じ得ない。 「でもこれは貰っておいてやるよ」 気紛れにでもいいからその鍔を使ってくれはしないかと万斉は思うが今回の所は引き下がることにした。 自分の選別したものが高杉のお目に掛かるとどうにも気分の弾む自覚がある。 「いい拵えでござろう」 細やかな鉄の細工に貝で誂えた梅の花が高杉の手の中でちかりと光った。 |