手と灰明かり 20081004


 後ろをぴょこぴょこついて歩いていた筈のジローの足音が途絶えたので跡部は訝しく思いながら無言で振り返る。
 ジローは首を大きく反らせて何かを見ていた。つられて跡部もそちらを見るが、植え込み越しにあるのは茜雲と夕日を反射する校舎だけだ。
「眠いか」
「いんや」
 返事を聞いて跡部はジローの手首を引いてまた歩き出す。
 ジローは暫く後ろを振り返り振り返りしていたようだが跡部が足の運びを緩めないでいると次第にちゃんと歩調を合わせてきた。
 そして跡部が握っている手を器用に少しするりと滑らせて指を絡める。
 跡部は少し歩幅を狭め、ジローの手を握り返した。
 ぼんやりとしていたジローの視線が確かな意思をもって跡部を見上げたので跡部はやっといつものように笑みを見せたのだ。











銀杏とテニスコート 20091015


 ジローが若い銀杏を拾ってきた。
「そのままじゃ食えねんだぞ」
 知ってんだろうなーと諭す跡部は銀杏のにおいに耐えられず鼻を摘んで眉間に皺を寄せている。
 ああこの顔を、跡部を崇拝している女生徒達に見せてやりたい。できれば一年生か二年生。割と冷静に跡部を認識している女子が少なからずいる同学年はまだ良いのだが、余りに汚れの無い瞳で跡部に憧れを抱く後輩を見てしまうと何とも言えない気持ちになる。
 と、事の顛末を見守っていた忍足は考えていた。恐らく隣に居る相方も、もう少し離れたところで見ている宍戸も同じ感慨だろう。
「バケツを貸して下さいっ」
「部長として許可しない」
「けちー!」
 けちとか言われてる跡部を、崇拝している女生徒達に以下略。
 ジローはテニスコート脇に穴を掘って銀杏を埋める手法を取ったようだ。
 スコップが見当たらなかった為か素手である。
 いつの間にやら向日がジローの近くに座り込み穴掘りを手伝い始めた。
「…土の中に十日埋めとくんやったか」
「忘れねーといいがな」
 宍戸は最早苦笑いで二人の背中を見ていた。
「あのやる気をちったぁテニスに向けてくれりゃなァ」
 ジローの頭のてっぺん辺りに銀杏の葉が乗っかっているのを忍足と宍戸は黙っていた。
 跡部も気付いているだろうに何も言わない。
 何故だか少し、勿体無い気がしたのだ。