要求します 20110505


 跡部は金を惜しまないがそれでいて行動も言葉も惜しまないタイプだった。
 だから人望高いのだろう、実際言う時にはどんなクサい台詞でも言ってのける姿はいっそ敬服に値する。
 と、部活で長いこと時間を共有していた同級生達は思っていたのだが、件の彼は頭半分くらい小さいジローに言葉を要求されて詰まっていた。
「ていうかまだそれ言ってなかったんかい」
 ああ忍足が我慢できずにツッ込んでしまった。
 宍戸が肝を冷やしたが跡部は気付いていないようだ。向日が後ろで安堵の息を吐く。
 ジローは気紛れであるが我儘はそんなに言わない。
 また何故だか勘もいいので、相手に無理強いして言葉をわざわざ要求するようなこともついぞ無かった。
 そんなジローがほんの少し出した我儘だ。
 しかしやはりジロー自身本意では無いのか、「やっぱいい」と踵を返した。
 見てるこっちがちょっと引くような速さでそのジローの小柄な手を跡部が掴む。

「いいか」
 跡部の声が上ずっている。正直怖い。
「俺様にこれだけのこと言わせんだ、これからずっと言ってやるからな!」
 そう宣言した跡部が息を深く吸って口を開ける。











マスコット 20111028



 ジローが跡部の膝で爆睡かましている。
 学校指定のジャージで、青空の下。
 昨年と同じ光景だ。
 一年生の時の体育祭ではジローはブラン組で跡部とは組が別れており、翌年は跡部がジローをかなり相当狙っていたらしいという噂がテニス部内で流れた。限りなく真実であろうと向日は思う。
 なぜならノワール組リーダーの跡部は我がノワールマスコットキャラクターを侍らせて去年今年と大層ご満悦であるからだ。
 幼い頃は向日もジロー共々商店街のアイドルとして可愛がられたものだが向日はすぐに男気に目覚めた。それもこれも、お隣さんが世話を焼かねばいつどこで死んじゃうかも分からないようなこのジローだったからに他ならない。
 そんなジローに妹が生まれた時は少しは男らしさとか年長者としての気概とか見せるようになるかと期待したものだがジローは良くも悪くもずっとジローだった。
 それもいいか、自分や周りで世話を見てやれる奴が見てやれば良いのだ、ひょっとしたらこうやって世界は回っているのかもしれないと最近では考えるようにすらなった。
 そんな時は大概「遠い目をしている」なんて言われるが。
 ちなみに三年生でマスコットキャラの座を得た人間はかなりレアらしいのだけれどそんなこと知ったこっちゃ無い。
 女子なんかすぐそこで「今年もジローちゃんか、可愛いもんね」なんて話している。女って度胸があるなぁ。
「それに起きると運動神経いいんだよね!」
 それは、確かに。
 ぱっと見ほのぼのした光景のようだがこれでこの二人は氷帝学園中等部テニス部2トップなのだ、怖ろしい。
 火薬の打ち上げられる音がする。
 ジローがぱちっと目を覚ました。
「あー丁度良かった、そろそろ三年生スタンバイだぜ」
 んん、とぼんやりとした声を出して目をこする。
 これなら自分で歩いて移動してくれそうだ、と思っているとジローは立ち上がり神妙に言った。
「そんじゃ行くかぁ。怪我しないでね跡部、岳人」
 本気なのだこいつはこれで。
 こういうところがこいつ意外とお兄ちゃんしてるんだよな、と向日は少しくすぐったい気持ちになる。恐らくきっと、跡部もだ。
「ばーか」
「誰に言ってんだよ!」
 そして昔から自分達はそんなジローに憎まれ口しか返せないのだが、言いながら笑えるようになったのは進歩じゃないかなと岳人は考えている。