「黄梅が咲いたから、蓮二に。」
「それと同じ台詞を弦一郎から毎年聞いているぞ」
新年を無事に迎え、俺は朝も早くから外へ出た。
毎年毎年この日にウチの門の前につっ立っている輩が居る(普段は遠慮なく俺の部屋まで上がりこむ奴が何を今更)からなのだが、―――。
「………精市?」
確かにそこには例年通り男が立っていたが、人物が違った。
「あけましておめでとう、蓮二」
「あけましておめでとう。早いな、朝。寒くないか?」
吐く息が白い。
「いや、真田も毎年こんな中蓮二を待ってんでしょ?」
…どこから知れたのか……。というか、俺は別にこのことをわざわざ吹聴する程でもないが隠す程のものでもないと思っているのに、弦一郎はやたらと俺に口止めしてきた。こと精市に対しては。
だがどうせ弦一郎がうっかり口を滑らせたのだろう。
精市が10cm程の、黄色い花が咲き零れた枝を俺に差し出した。
「黄梅が咲いたから、蓮二に。」
「それと同じ台詞を弦一郎から毎年聞いているぞ」
実際そうである。
と、そこで弦一郎の声が二件隣から轟き、厳粛な新年の朝の空気を切り裂いた。
「幸村ァァァァァ!」
ああ。
「この梅、弦一郎の家のか」
今は俺の手にある黄梅を見た。
「そ。おばさんに頼んで真田にバレないように朝イチで貰ってきたの。ついでに真田を足止めして貰ってたんだけど、もうバレちゃったみたい。」
弦一郎の走ってくる音がする。
「『真田を出し抜いて誰より早く蓮二に会う』って目標が果たせたからいいや。蓮二の着物姿も久々に見れたしね。」
「そうか。」
弦一郎が息を切らせてやってきた。こんなに家が近いというのに何をそんなに急ぐのか。
弦一郎がやってきたのを確認して、しかし無視するかのように、精市が俺にまた花を差し出した。
「で、これは俺が自分で手入れをしたの。蓮二に。」
白梅。
「ウチの白梅は正月に咲くんだ。」
「幸村ッ!黄梅を横取りしただけに止まらずお前――!」
「あけましておめでとう、弦一郎」
そこで弦一郎は弦一郎はやっと呼吸を整えた。
「う、うむ。あけましておめでとう」
「精市、梅はありがたく頂戴する。お茶を用意してあったんだ、取って来るから少し待っててくれ二人共。」
そう言って二人に背を向けた。
今年も何かと退屈しないで済みそうだと思った。
「…残念だったねぇ新年一番に蓮二に花を送れなくて」
「煩い。他人の母親にまで手を回しおって」
「一週間前からだっらしない顔して真剣に黄梅見繕ってたのは誰だよ(それを蓮二の家から帰るところでたまたま見掛け、脅したら吐いた)。しかも俺に四年間も黙ってやがってさ」
「…………」
溜息をつき、真田は「明日改めて今度は紅梅を贈ろう」と思ったのは口に出さないでおいた。
柳家の門の脇で、小さな木瓜の花が咲いていた。
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