バレンタイン短文『戀心』 20060214


 その日たまたま俺はちょっと古い本を読んでいた。
「蓮二、これ読めない」
「どれだ」
 この字、と俺は蓮二に本を差し出す。
『戀愛』
「ああ、それは『れん』だ」
「『れん』?」
「いとしいとしというこころ」
と、蓮二はその漢字の『糸・糸・言・心』の部分を指しながら言った。
 え?「れん」?続けて読むと「れんあい」?…「恋愛」。「恋」?恋、が「いとしいとしというこころ」?

 愛し愛しと言う心。

「どうした、精市」
「………すっっっごい、照れる」
「そうか」
 そう言って少し余裕気に笑う蓮二が今日はなんだか小憎たらしい。恥ずかしくてまともに顔も見れやしない。
 これが、


 愛し愛しと言う心












その一瞬、世界は彼の為にあるのだと思った 20060205


「誰にも あげる 気は 無いねぇ」
 部長は俺に少しだけ視線を向けてにやりと笑みながら言った。子供にも分かるように言ってやったんだと言わんばかりにやたらはっきりと。
 柳先輩は誰のものでもないんじゃないスか、と俺が頭の中で考えられる限りの精一杯の反論をしてみた。
 すると。
「何言ってるんだい赤也。蓮二は俺のだよ」
 その言葉に理論性だとか理屈とかそういうのは無いと思う。けれど俺は妙に気圧されてしまい、何か浮かんだように思える言葉も出てこない。
 だって幸村部長は会話している俺じゃあなくてずっと柳さんの方を見ていたから。











試練 20060521


「真田がウザい」
 そんなことを真顔で言う幸村はテニス部内で良く見られる。今なら部員全員満場一致の肯首付きだ。
 とにかく今日の真田はいつにまして声がでかく、また眉間に皴を寄せ押し黙り、それでいて何か無言で訴えてくるような雰囲気で、総括すると大変うざったく暑苦しかった(いつものことといえばいつものことなのだが)。
 ちなみに真田は幸村の「邪魔」の一言で教員室にパシらされている。
「真田、何かあった?」
「今日は弦一郎の誕生日だ」
「へー、あ・そう。真田誕生日なんだ。そんで幾つになったんだっけあのオッサン」
 中学三年だ、15歳だとツッ込むことを部員はしない。真田と同じ三年生もしない。そんな行為は真田と顔を付き合わせた二年前にとっくにやり切ってしまった。つまり疲れた。
「そういえば去年の誕生日は………」
 何かあったんだろうかとレギュラーは息を潜め柳の次の言葉を待つ。
「無視したな」
 それだよ間違いなくそれが原因だよとレギュラーは心の中で激しくツッ込む。参謀自身はそんなレギュラーの心中を知ってか知らずか涼しい顔(これもやはりいつものことといえばいつものことなのだが)。
 部長幸村は「それはいい今年もそうしろ、今日一日くらいどんなに真田がウザかろうが乗り切ってやろう」と煽る一方。
 今日はまるでもう夏が来たかのように日が差して、そして今日の真田はとてもウザかった。