こないだ光が歌うてた曲 |
地域的に交通ルールに大らかであるものの見付かると面倒であることに変わりはないので、自転車の二人乗りは駅の手前までといつの間にか定まっていた。 謙也の自転車の後ろに財前が少しの間乗せて貰うのはここ最近の習慣だ。 その時間の中でも話したり話さなかったりする。 自転車を漕いでいる間、謙也はイヤホンをつけたりはしない。たまに財前が自分の音楽プレーヤーを起動させてイヤホンを片耳につっ込むことはある。もう片方は、自分に。 今日はそれをしているわけではないが、謙也が機嫌よく少し声に出して歌っている。後ろに居るとよく聞こえないなと財前は思う。 「先輩、なに歌うてるんですか」 「こないだ光が歌うてた曲」 …は? 答えてまた揚々と歌いだした謙也をじっと見る。耳を凝らしていれば、確かに覚えのある旋律だった。 それは、それはあれか。 休み時間だったか音楽室でたまたまキーボードが空いていたのを好奇心に負けていじっていたら、次の授業の三年生その中でもこの人がスピード云々ほざきながら一人で入ってきた、あの時。 聞かれてた聞かれてた聞かれてた!? しかも今、歌えるほどに謙也がなっているということは。 誰やこいつに音源渡したんは!? だって世間にこの曲が出回る筈が無いのだ、この曲は。 「いやー去年の木下籐吉郎祭の辺りで、オサムちゃんと光よう喋っとったろ」 「そこか…!」 財前はもうどうしたらいいのか分からなくなり、思わず謙也の首の後ろで小さくなった。 「オサムちゃんと縁あるねんなー光」 「よーいらんですわそんな縁」 「そないなこと言うたらアカンで、ええ曲やねんからな」 そんなこと知ってる。 「よく分かったスね」 あの時だってろくすっぽ聞こえなかった筈なのだ、それを。 渡邊に聞いたとはいえよく見付けたなと思う。 「光のことやからなぁ」 何だろうこの人は自分を羞恥心で殺したいのだろうか。 「なー今度は光が歌うとるのが欲しいんやけどー」 駅前になったので財前は無言で自転車から飛び降りた。 謙也がバランスを崩し何やら喚いているが、それくらいではまだ足りない。これ以上調子に乗らせてたまるか。 |