オーハイネ








 鮫に下半身から左肩までまるごと持っていかれたスクアーロは、絶縁体の人口培養液で溢れたポッドに突っ込まれ生きていた。
 体中に張り巡らされた細かいケーブルはスクアーロの生命維持を行っていたがそれよりもスクアーロの感覚を麻痺させる目的のものも多く、実際のところスクアーロは残された右腕も首もまるきり動かせない有様だ。ケーブルを体に繋ぐ時に神経を弄られた跡がミミズ腫れになって残っていることが化学技術員の漏らした言葉で憶測はついたが、頭を動かせない状態で自分の体を見ることは不可能だった。
 鎖骨あたりから上は培養液から出されていて不思議なことに肺呼吸は許されているようだ。人間というのは考えていたよりずっと頑丈なのかもしれないとスクアーロは思ったりもしたが、それすら随分と前のことだと認識している。
 どれだけ時間が過ぎたのかスクアーロには分からない。健診めいたことを一定周期で行っているふりをして毎回巧妙に時間をずらし続けられ、それなりの耐久訓練を受たスクアーロの時間感覚だがさすがに混乱を来たしていた。
 無理矢理昏倒させられたこともあった。その間に頭の中をごっそり覗かれているらしい、拷問やマインドセラピーの類ではスクアーロが思い通りにならないことを相手は良く分かっている。とにかく昏倒してしまうとどれだけ時間が経過しているのかが分からないことは、この状況でも腐らないでいられるスクアーロにしても辛いものがあった。そもそも昏倒させられてしまっては次に起きることがあるのかどうかも分からない状況である。
 目が覚めて何十年も経ってたら虚しいとかより単純に嫌だなぁと思うのだが、たまに視界に入る化学技術員の顔や聞こえる声にこれといった老いが見られないのでその点は大丈夫そうだった。

 ボンゴレリング争奪戦の後、超級危険人物としてXANXUSは拿捕されザンザスの目的を知るとされるスクアーロは生き残っていると知れるやボンゴレ幹部に拘禁された。
 次期ボンゴレとなった少年は肝心なところで甘さが抜けないというか一歩踏み出すことを躊躇するのは相変わらずで、彼の為に拷問にも限度が出来てしまいXANXUSに刑を執行できず現ボンゴレ幹部格には随分不満も出てきている。元々XANXUSも拷問には耐久がありこういったことには相当手強い。スクアーロがこれまで生かされているのはXANXUSを罰するに必要な情報の糸口を掴もうとする現幹部連中のためだった。
 スクアーロの生存は次期ボンゴレも知らないことで、よって現幹部はスクアーロに手心を加える必要が無い。

 スクアーロの元へ人が近づいてくる気配がした。
 まだこの一郭に用がある者が居るんだろうか。研究員は全員せめてもの慈悲のつもりか知らないが先程退出している。首も動かせないので誰が入ってきたのか確認できないのは不便だなとスクアーロは思う。
 だが足音に聞き覚えがあった。
 うっそだろう。
 思わずそう口にしたくなる。口は使えるのかどうか知らない、試したことが無かったからだ。例え使えたとしても喉の方がついてくるかどうか。
 スクアーロが体の自由が利かないのを知っているのか感付いたのか、XANXUSがスクアーロの視界に入るように顔を寄せてきた。動きのぎこちなさから彼が手首のことろで拘束されているのだろうと知れる。
「いい様じゃねぇか。これでもうお前は自分勝手な誇りの為に死ぬことは出来ない。俺の為に死ぬことだ」
 ああアンタ、そこらじゅうで音声拾われまくってんの分かってるくせに。そんなこと言ってるとまた拷問受けるぜぇ。そんなことをスクアーロは言ってやりたかったが、それよりもXANXUSのその言葉に頷きたかった。
 彼も少し痩せ困憊している様子だったが生きている。
 声はうまく出せただろうか。ざんざす、と呼んでみたけれど。
 XANXUSはスクアーロが知る笑顔で眉間に皺を寄せて笑った。
「生きていてやるよ。俺が生きてねェとお前は生きられねえんだもんなぁ」
 そうだよ。
 ついていきたいなぁ。アンタについていきたい。
 もう彼の為に動かす指の一本も残されていないけれど、それでも構わないだろうか。
 XANXUSは動かし辛いだろうにそれでもゆっくりと腕を伸ばしスクアーロの頬に額に髪に触れた。
 こんな構図は珍しい、というのはどうやらお互い自覚があるようでXANXUSも居心地が悪そうだ。それが少し可笑しかった。
 そうしてXANXUSとスクアーロは短い対面を終えた。

 XANXUSは既に刑が執行されていることを知らない。
 スクアーロはXANXUSに違うのだもう会えないのだと告げることは出来なかった。だって彼が初めて己の意志で生きると言った。
 何にせよ刑は、スクアーロ達に悪意を持つ者達の最も思惑通りに施行されたのだ。
 スクアーロの生命維持装置は時間を掛けて停止するように先程組み直された。スクアーロはあと数刻も生きていられない。
 幹部達はやろうと思えば本当にザンザスが老衰で死ぬ間際までスクアーロの死を隠すだろう。
 じきに生命を終えるこの体でXANXUSの生きる意志を聞きながらもそれについていけないことがスクアーロの刑ならば、スクアーロの死を知らず生きていくことがXANXUSの刑であった。

 さっきスクアーロは最初で最後の嘘をついた。
 いや、XANXUSの生きるという言葉を聞いてそれを否定するどころか彼についていきたいという感情にスクアーロは支配されそれは本心だったから、XANXUSに嘘をついたのとは少し違う。
 そうだとしてもあのXANXUSに気付かれなかったのだからひょっとすると自分は思っていたより嘘が巧いのかもしれない。また試してみたいなと考え、そこでスクアーロの意識は終わった。





















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これ以上原作の展開が進むと書けなくなりそうなので書いとけってネタでした。えっらい長くなってしまった。

スクアーロの生存を知っているのは九代目の幹部とXANXUSだけで、幹部はツナにスクアーロの生存を伝える気は無いしツナとXANXUSは対面が許されていないのでツナがスクアーロの生存を知ることも無ければ保護に回ることもありません。
よってこれ以降XANXUSがどんなにスクアーロに会おうとしても会えないまま、XANXUSは自分が殺されるんならまだしもスクアーロが殺されることは無い、殺されるとしても自分より前になることはないだろうと生き続けます。生きてさえいれば何とかなる。そんで死ぬ間際になって実はスクアーロはもうとっくに死んじゃってますよ、オマエが最後に会った直後に死ぬことになっていたし彼もそれを知っていた、と告げられてザンさまは生にしがみついた自分を呪って死んでいくという。
ええと何だか本当に申し訳ない。

でなければ早々にザンさまはスクを手元に戻そうとヴァリアー幹部(「元」がつくのかもしれない)を率いて動くのですがスクアーロの痕跡が全然見付からず、追っているうちに真実を知りザンさま途方にくれる・の可能性もあるかなと―――いやあの本当に申し訳ないですすみません。


ていうかですね、なんかスクアーロ違うかなー諦め良すぎるかなー。でも山本に負けた時に妙にしおらしく潔かったのでこういうところもあるんじゃないかなと…。
あと絶対スクアーロは過去を振り返ったりこれからのことを考えたりということができる性格してないと思います。ただただ今を全力で生きる奴。だからしおらしい面があるくせに悲観的にならないというか。

あの原作展開読んだら普通はザンさま拘束ネタを考えるのが普通だろうに私はどうしてこう逆(この話ではザンさまよりスクの方が体の自由が利かないので)にしたがるかな。