くきら








 スクアーロは言語がかなり怪しい。ときたま馴染みの無い言葉を洩らす。聞き取れやしない。
 自分はそれが何故か気に入らなくて、奴がそういう怪しい言語を使うとすぐに手が出る。
 そういったわけでたった今自分は奴を一発ぶん殴ったところだ。
「う゛お゛ぉいっ!」
 こういう時の俺の行動をいつもの俺の癇癪だと判断しているらしく、だったらそうなんだろうと俺も思っている。
 そしてあいつがいつも通りの汚いイタリア語を口にすればそれ以上俺が手を出さなくなるのは癇癪が収まったからなんだろうと奴は思っていて、だったらそうなんだろうと俺も思っている。

 スクアーロがよく分からない歌を歌っている。何かしら元となった曲があるのかもしれないが自分には適当な節に適当な音を乗せているだけのように聞こえる。聞き取れやしない。
 無意識なのだろうが、こちらにとってあまり歓迎できない癖が出た。それは小さな、聞き取れるかどうかというくらいの声。
「スクアーロぉー。歌うならボスに聞こえない所でなさいな。不機嫌になられちゃ堪らないわ」
 声が間延びしているのはこれがいつものことで呆れ返っているからだ。
 スクアーロは言語がかなり怪しい。
 というのもどうやらスクアーロは出自が明らかではない。親を知らないどころか出生国も定かではなく、記憶は内乱だか紛争だかの真っ只中からとりあえず始まると彼は言う。まともな教育などされなかったものの周囲の人間の言語はどうも一つではなかったことは分かるらしい。おおよそ他国の軍でも入っていたのだろう。
 そんな環境で生き延びている内にスクアーロは何ヵ国かの言語をごちゃまぜに覚えてしまった。
「俺、そんなに音痴だったかぁ?」
 ああ、今ボスがスクアーロを殴りつけたらそれは彼が音痴だからだろうかと見当つけるわけだ、この子は。
 そういうわけではない。
 XANXUSはスクアーロのわけの分からない言語から自分が知らない頃の彼の片鱗が見えることが腹立たしいのだ。が、XANXUS自身はそれを認めないだろう。そもそも自覚しているのかどうかもルッスーリアからすれば怪しいものだ。
「別に。アンタがいいなら私は構わないんだけど」
 出自が明らかではないもののアンタは少なくとも欧州の血だと思うわ、とルッスーリアはスクアーロに対してひっそり思う。根拠は怖ろしく安直にもスクアーロの肌や髪の色。
「鈍いコねぇ」
 スクアーロは紆余曲折を経てイタリアに入りXANXUSのものとなり剣帝の「育み」扱いになる。
 それさえ分かっていれば良いではないか、スクアーロ自身もXANXUSと会ってからのことにしか興味が無いのだからと思うのだが、ボスはそうではないらしい。
 若いというか幼い頃のXANXUSとスクアーロのことをルッスーリアは少し知っている。知っているだけにボスとスクアーロを見てると難儀だと余計に思うのよねぇと少し溜息をついてみせたのだが、それはスクアーロのわけの分からない歌に隠されて誰の耳にも届かないのもいつものこと。
 とりあえず彼のイタリア語が戻ってきて良かったと胸を撫で下ろす。
 何が難儀かって、ボスが引っ掛かってるところをスクアーロは全く意に介してないってところよね!全くもう!





















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ボスがアホの子みたいだ。