マーモンは自分が呪われてからこの方、時間に囚われなくなったということを自覚している。それは自分が呪われてから体の成長といったものと無縁になった為か、記憶するということにおいても同様だった。記憶というものは生きていれば忘れていくことは道理であり、状況によっては塗り替えられたり変化に順応したりする。そういう変化が自分の中で希薄になった気がしている。
スクアーロとの付き合いが数年、出会った頃のスクアーロと今の彼との些細な違和に気付いたのはその所為だろうとマーモンは思う。自分以外の誰もスクアーロの変化に気付いていないからだ。それほどスクアーロの変化は緩やかで微微たるものだった。スクアーロ自身も自覚しているのかいないのか。
本当に気付かれない程度、スクアーロの脳内処理が劣化したのが分かる。
例えば何かを問うと回答に以前よりほんの少しだけ時間がかかるようになった。本当に微かな、少しだけ。それでも仕事してるの時の反応は誰より早いのだ、彼は。
だから誰も気付いていない。自分の他にも誰か気付いただろうか?
かの上司なら気付いただろう。だが元々、その上司が居るなら彼はこうはならなかった筈なのだ。
スクアーロは意図的に脳内で記憶を選別している。残しておきたい記憶、それを脳の奥底へ沈めて隠し、誰にも干渉されないように守っている。
そうやって彼が記憶の中で強く誰を探し求め守ろうと忘れまいとしているのかなんて口にせずとも明らかな話だ。今は氷に封じ込められているヴァリアーのボス、XANXUS。
本来のスクアーロならそんなことをせずともXANXUSの何もかもを忘れたりしないだろう。あれでいて一度見聞きしたもの体感したものは忘れない程に身体能力は高いスクアーロが異常なまでに忠義を尽くした相手なのだから。
だが「ゆりかご」と呼ばれるようになったクーデターが失敗に終わりスクアーロが受けた詰問はスクアーロの記憶を脅かすような手段も含まれていたらしく、それが相当に怖ろしかったのだろう。危機感を覚えたスクアーロはそうして自分の脳内処理能力を犠牲にしあるいは酷使しXANXUSに関するあらゆる記憶を手放すまいとしているようだった。
そんなゆるゆるとした狂気はこれからどれだけ続くのか。
と、いう話をXANXUSが氷から解放された今、するべきかどうかマーモンは迷っている。そんなことをしなくてもこの二人は何も変わらないことは明らかなのだ。
けれどスクアーロが自分からボスにそんな不安があったことを訴えることはないだろうと思う。だったら自分が少しくらいお節介を焼いても構わないのではないだろうか。それに。
「もしかしたらボスは少し喜んだような顔をするんじゃないかな」
そう小さく呟いてマーモンは頭上の蛙に同意を求めた。自分は今XANXUSの執務室の扉の前に居る。
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