今日の名前 20080509


 何でもない日だった。
 ベルフェゴールはベッドに突っ伏して惰眠を貪っていたのだが、それが何時間にも及ぶと突如がばりと跳ね起きる。
 彼は無言でスクアーロの自室に押しかけ、文句垂れる部屋主を無視してベルフェゴールの部屋にあるものより長めのソファを占拠した。
 諦めたのか小さく溜息を吐くと押し黙るスクアーロをちらりと見遣る。
 部屋は静かだった。
 ベルフェゴールはそのまま睡魔に襲われた。あれだけ寝たのにおかしなものだと沈んでいく意識の中思う。
 何でもない日だった。
 でも自分を呼ぶような音がする。
 何だろうと思ってベルフェゴールが意識を戻すと、スクアーロがベルフェゴールの顔を覗き込んでいた。起きているのか寝ているのか判別しかねていたのだろう。
「おお、起きたかオウジサマ」
 スクアーロが首を竦めてみせた。彼の髪が揺れる。
「んー、スクアーロの髪の擦れる音がする…」
「するかぁそんなもん」
「王子には聞こえたのー」
 たった今、ベルフェゴールは今日初めて誰かと言葉を交わした。
 だから今日はスクアーロと話した日。











星夜 20080917


 仕事帰りの星夜、スクアーロの隣を陣取って石畳を歩いている。
 空を泳ぐ魚を見たのだと言った。
 実際本当にいたのだ。
 自分には見えたのだから。
 だからといってそのままを告げたところで小馬鹿にされるのが精々だと驚きのまま言葉が口をついてから後悔したのだが、スクアーロはそれを言ったベルフェゴールを少し見てそれから視線だけ天にやる。
「ふーん」
 それだけだ。
 子供扱いされているのだろうか。ベルフェゴールはあからさまにむくれた。
 歩みを止めないスクアーロに駆け寄り、強く主張を始める。
「言っとくけど、王子は薬とかやってないからね」
「知ってる」
「先輩ほど思い込みも激しくないし」
「おもいこ…。あ゛ー、ハイハイ。知ってる」
「魚を、見たんだ」
「知ってる」
 知らないとも分かってるとも言わず説教めいたことも言わず、スクアーロはただ知っていると繰り返した。
 星夜。











恩讐――テュールより 20081010


 なぁテュール、俺あいつについていく。
 スクアーロは三度そう言った。初めてXANXUSに会った時。記憶を飛ばされて、それでもまたXANXUSと出会った時。XANXUSが凍結から目覚めた時。
 もういいではないか、とテュールは小さく呟く。
 もうあの二人を引き離すのは無理だ。あの二人は出会うようにして出会ったのだし、何度引き離されてもお互いを探す。
 そういう風にできている、そういうことだ。