湯船 20110328


 ベルフェゴールが仕事終わりに興奮してスクアーロに殴りかかったのを、スクアーロは軽く足払いして自室のバスタブに頭から放り投げた。
 血を落とせば治まるとでも思ったのだろうかと冷めてきた頭でベルフェゴールは文句を言いたかったが首から背骨が痛くてそれどころではない。庭園の噴水にぶち込まれたほうが広い分まだ痛くなかったのではないか。
 それにつけても温かい。
 この湯船はスクアーロが自身の為に用意していたのだろう、スクアーロの風呂好きはベルフェゴールも知っている。
 生憎服を着て湯に漬かる趣味は無いので渋々隊服から脱ぎ投げた。
 いつの間にやら姿を消しまた戻ってきたスクアーロは髪を括っていた。
 その頭に向かってブーツを投げる、水を含んだ分勢いは良かった。
 スクアーロは当然のように頭をちょっと傾げた程度に軽く避けた。くそ。
「誰が拾うと思ってんだぁ」
「バカ鮫」
 全くその通りなのでスクアーロはぶつぶつ文句を垂れるしかない。
 その様を見ていた筈なのに、スクアーロはほんの隙をついてベルフェゴールの頭を乱雑に洗いだした。
「痛い痛いあははくすぐったい!」
「どっちだぁ」
 砂塵だとかこびりついて黒ずんだ血が落ちたのをざっと見て取ったスクアーロはベルフェゴールの了承も取らず脳天からシャワーをかけた。湯船に泡が入るのもお構い無しだ。
 ベルフェゴールはもちろん思いつく限りの罵詈雑言を浴びせてやろうと思うのに泡が口に入りそうで思うようにいかない。
 しかしスクアーロがシャワーノズルを端に置いて最後にバスタブの近くに転がっていたティアラを頭に載せたのでベルフェゴールは大層気分が良くなった。
 襲いかかったさっきも今も、彼の髪の毛一本掴めなかったけれど。











螺旋階段 20111027


「スクアーロ!」
 螺旋階段の上からディーノが声をかけてきた。
「あ」
と同時に派手に転げ落ちる。
 大理石の階段がすわ鼻血まみれかと思えば、どうやったらそんな転び方ができるのか背中から落ちたのでいつもの上着がクッションになりぱっと見た限りでは怪我も破損もない。
「あいたた背中擦った…」
「器用な奴」
「え、何が」
 スクアーロはもちろんディーノの転び方のことを言ったのだがこの優男には通じずにこにこと笑顔だ。
 褒め言葉めいたものをスクアーロに言われるとディーノがさも嬉しそうに破顔するのはいつ頃からのことだったか、その度に皮肉が通じないなぁとかこいつ本当にマフィアの息子かなぁとかスクアーロは溜息を吐いたものだが、結局その真意は汲み取って貰えぬままだ。
 そんなスクアーロをディーノはまだ笑顔で見ている。
 お前弟子とか弟弟子の前ではもうちょっと恰好つけてなかったっけ。
「何だか学生ん時みたいだな!」
 そしてこんなことを言うのだ。
 確かにこのホテルのテラスとか、廊下の窓とか、この階段の曲線具合とかに感じ入ることろが無いわけでもなかったりする、実は。
「あのなぁ跳ね馬ぁ」
「あ、XANXUS!」
 ディーノの目線のままスクアーロが振り返るとXANXUSが一瞬驚いたような顔と、その後しかめっ面になりながら何か逡巡するような目線をこっちに寄越した。
 彼がそんな顔をするので、自分もつい「御曹司」とか「へなちょこ」とかそんな言葉が口から零れそうになる。
 自分は今も昔もスクアーロなのに。











見たこと無い私用ケータイなんざクソくらえ! 20120326


 ごねにごねてベルフェゴールとマーモンはスクアーロを連れ出した。
 街を回って、甘いものを食べて、海からの風に煽られ岸壁を歩きながら反対側に広がる山に見えるあそこには仕事で行ったとかそんな話をする。
 そんな中俄かに響いた電子音はベルフェゴールとマーモンどちらも聞き覚えが無いもので、その音源であるやはり見覚えの無い携帯電話をスクアーロが取り出したことに一瞬呆気にとられる。
 何より第一声が宜しくない。
「山本ォ?」
 ベルフェゴールはその携帯電話を奪うと横に広がる青海に向かって相当力いっぱい投げた。マーモンの力で更にもう一段遠くへ跳ね上げるというオプション付だ。
 何が起きたのかスクアーロは暫く海とベルフェゴールをゆっくり見た後にいつもの感嘆符たっぷりの声を上げた。
割とこういう時スクアーロは抜けている。
「お前海水って一番駄目なやつ…!!」
「意外と冷静?」
 ていうか海水を心配するなんて、回収できるつもりでいるんだろうか。そうか。
「取ってくれば鮫なんだし」
「無理に決まってんだろぉ!」
 ああそれは良かった。
「じゃーあとはボスにお土産買って帰ろうぜー」
 お前ら土産買うのにまたどんだけ俺を付き合わせる気だぁ!
 と後ろから文句と足音が聞こえる声を尻目にベルフェゴールとマーモンはにやにや笑いながら歩いた。











ホーロスコウプ 20120829


 手を何度か握っては開き、いけると思ったので勢いつけて起き上がる。
「あ痛っ」
 怪我人の括りでいつまでもレヴィの隣で寝かせられるのも癪なので、それくらいの痛さは気付かなかった振り。
 件のムッツリが間抜けな寝顔を晒しているのを視界に入れないようにしながらブーツを雑に履いてベッドルームを後にした。
「あらーベルちゃん起きちゃったの」
「お前だって起きてんじゃんオカマ」
「治りは早い方だもの。みんなのご飯作らなきゃいけないし」
 ルッスーリアは嬉しそうに付け足した。
「でももう帰んだろ」
 首謀者は依然謎のままであるもののアルコバレーノ同士の抗争は何だかんだで流れたというし、突如絡んできたヴィンディチェに関しては日本で動けるボンゴレ関係者が総力を挙げることを決議したという。
 ヴィンディチェは確かにこれまで不可侵であったが、そうなったら負ける気がしない。
 自分がその中に居ないのは若干しこりを感じないでもないが、何せ我らがボスとカスザメもとい作戦隊長が馳せ参じているわけである。
「ボスさんのことだからケリついたんならすぐイタリアに帰るって言い出しそうじゃん、荷造りしとかねーと」
 言いながらベルフェゴールは自室に向かう。
「何があるか分からないでしょーでもだけど、まぁ多分ね」
 ひょっとしたら今度は虹の代理戦争の首謀者が割れてもう一騒動くらいはあるかもしれないが。
「ついでにスクちゃんとマーモンちゃんのも荷造りしといたげなさいよ。ボスの方は目立たないようにこっそりと進めておくわ」
 後でお茶を淹れて持っていってあげるわね、というルッスーリアの言葉を背中に受けながらベルフェゴールは廊下を歩いた。











メリッサメランコリック 20121108


「アンタねーもしアンタの立場だったらどう、ボスの心臓が握られてるの見て平気でいられると思うわけ?」
「んなワケねーだろぉ何言ってんだ、あ、次の買い物これかぁ」
 XANXUSに叩きつけられたメモを何事も無かったかのように受け取ってスクアーロはまた売店へ走って行った。
「………何だその目は」
「ご同情申し上げるわよボス」
 軽い調子でこそあったがスクアーロの今の発言に嘘は無い、むしろ当然のことであるが故のあの返答なのだ。
 そのことが余計にXANXUSを気の毒にさせる。
 スクアーロはいつXANXUSも人間であると気付けるのだろう。XANXUSがスクアーロの心臓を見て全く動揺が無かったなど彼以外は思いもしないのに。
 しかも動かない返事をしないスクアーロなんてXANXUSにとっては初めてのことだ。
「いらねぇ」
「とっといて頂戴タダなんだし」
「マーモン相手みたいなこと言うんじゃねぇよ」
 そうしてXANXUSはまた次のお使いを考える。











ライトライト 20121224


 この界隈はボンゴレ当主の穏健な姿勢もあって、物騒な事件が無いわけでもないがそれ以上に人が集まる。
 最近は冬に浮かれて街も華やかだ。
 ベルフェゴールとマーモンはそんな街をひとしきり冷やかして抜け、深い森に入る。
 聳える古城からはいつものルッスーリアが作る食事の匂い。
「たっだいまーお腹空いたぁ!」
「僕も!」
「はいはいはーいもうすぐボスとスクちゃんが帰ってくるからそれまで待ってなさいねー手洗いうがい!」
 暗殺者が風邪引いてたら様にならないのは分かるがその子供扱いは何とかならないだろうか。
「ていうかスクアーロは仕事あったけどボスもぉ?」
 ルッスーリアの皿を準備する手が止まる。
「……なんかスクアーロの迎えに行った…みたいなんだけど」
「何があったのその事態!?」